本年1月から労働契約の5原則を順次ご紹介してきましたが、本号では「権利の濫用禁止」について説明いたします。
労働契約法3条5項では「労働者・使用者は、労働契約に基づく権利行使を濫用してはならない」と民法1条3項の「契約の一般原則」が当然に労働契約にも適用されることを確認しています。
この条文は、労働者の解雇に関するトラブル増大を背景に、最高裁で判例として昭和50年に確立した「解雇権濫用法理」を労働基準法に規定(18条の2=平成16年改正施行)されたものが、労働契約法の施行によって移し替えられたもので、これに関連した「就業規則に、退職に関する事項として解雇事由の記載(89条3号)」「労働契約締結時に、解雇事由を書面交付により明示(15条)」「労働者が退職の日までに解雇理由証明書交付を請求できる(22条2項)」の改正事項は、そのまま労働基準法に残されています。
労働契約法での「権利濫用」についての具体的規定は、第3章において、労働者に「出向(在籍型)」を命じる際に、規定がある場合であっても合理的理由が求められること(14条)、「懲戒・解雇」には、客観的に合理性があり社会通念上の相当性が求められること(15・16条)が定められています。
例として説明しますと、労働者の雇用に際しては適法な勤務要件を定めて誠実に就労することを求めるのですから、労働者が誠実に就労していないと思われるとき使用者は「注意・指導」をして、改善が見られないときは「懲戒処分」や「解雇」をすることも考えられますが、その妥当性は、使用者に立証責任が負わされたうえで、労働者の行為と処分の重さの関係が客観的に合理的であり社会通念上相当と言えるかが問われ、不合理と判断されれば使用者の権利濫用として無効となる意味であり、手続き上も就業規則(労働者10人以上)・労働条件通知書に「こんなときには懲戒処分・解雇」と合理的な事由の規定があり通知されていなければならないことになります。
権利濫用禁止の原則は、労務管理全般での「労使対等の原則」に反する使用者の恣意的行為を禁じるものですから、明示した労働契約条件の下で円満な労働関係を築き働きやすい医療勤務環境作りの推進をお願いいたします。