今月は7月1日〜7日の「全国安全週間」を控えて準備月間ですが、本号では労働契約法に定める使用者が負う「安全配慮義務」を説明いたします。
労働安全衛生法では、労働者が労働することによって負傷したり疾病を発症したり、ときには命を失うことがあってはならないことを使用者の義務として、最低限の安全衛生管理義務を定め違反には処罰を科すとされていることはご承知のとおりですが、労働契約法では、労働者を雇用する民事契約に付随する使用者の安全配慮義務があること、言い換えれば「安全配慮の不履行には賠償責任が生じる」ことを定めています。
この規定(第5条)は「使用者は労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう必要な配慮をするものとする」とされていますが、これは、今までに民事訴訟で争われ定着した最高裁判例を基にしているもので、使用者は労働契約で特に取り決めをするまでもなく、当然に労働契約上の付随義務として労働者の生命、身体等の安全(心身の健康を含む)に責任を負うことを明確にしたものです。
又、「必要な配慮」とは、労働安全衛生法に定める最低限の特定の措置は当然のことながら、勤務環境等の具体的な状況に応じた的確な安全・健康確保対策が求められ、要は「業務に起因する災害・疾病」の発生を防止するための出来得る限りの対策がとられたかが問われることになります。
例えば、長時間労働が身体に及ぼすリスク(心疾患・脳血管疾患等)として「1か月100時間の時間外労働は危険」との医学的知見がある現時代において、その状況にあった労働者が虚血性心疾患を発症すれば、業務のリスクが具現化したことを否定できず、使用者が「本人に対して、健康管理には十分留意するよう注意していた」と弁明しても安全配慮が尽くされたとは認められず、労災補償の対象となることの他、民事賠償責任が生じることになります。
その意味では、働き方改革としての「医師の長時間時間外労働」の規制が先延ばしされる状況に甘んじることなく、医療の質の向上と医療従事者の健康確保ができる勤務環境改善が両立する取組をお願いいたします。